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【賃貸借】保証金・敷金返済債務と賃貸人側の相続

建物賃貸借契約締結中、賃貸人(A個人)に相続が発生し、複数の相続人がAを相続した場合、誰が保証金・敷金返還債務の支払義務を負うか?

賃貸借目的物である遺産が未分割の場合

敷金返還債務は、金銭債務なので、一見、法定相続分に応じて当然に承継されるように思われます(大判昭5.12.4 、最判昭34.6.19)。
もっとも、大阪高裁54年9月28日判時954・40は次のように判断し、不可分債務であると指摘しています。
「右のように賃貸人が複数の場合、その賃借人に対する用益提供は共同不可分になされているとみられるから、その対価である賃料債権や用益提供した目的物の保管または返還義務の不履行による損害賠償債権などもやはり不可分債権として成立するというべきであり、そうすると賃貸借が終了して目的物が返還されるときにその賃貸借に関して生じた右のような各債権をすべて控除したその残額につき成立すべきいわゆる敷金の性質を持つ保証金の返還債務について、これを分割債務とすると、賃貸人と賃借人間の利益の均衡を失するうえ、法律関係の錯綜を生じて不都合であつて、右債務も他に特段の事情のない限りは右の各債権に対応して不可分と解するを相当とする」
つまり、敷金返還債務は、不可分債務となり、賃借人は、Aの相続人誰に対しても全額請求することが可能となります。

賃貸借目的物である遺産が分割済みの場合
このときは、大阪高裁令和元年12月26日が参考になります。
すなわち、同裁判例は、「敷金は、賃貸人が賃貸借契約に基づき賃借人に対して取得する債権を担保するものであるから、敷金に関する法律関係は賃貸借契約と密接に関係し、賃貸借契約に随伴すべきものと解されることに加え、賃借人が旧賃貸人から敷金の返還を受けた上で新賃貸人に改めて敷金を差し入れる労と、旧賃貸人の無資力の危険から賃借人を保護すべき必要性とに鑑みれば、賃貸人たる地位に承継があった場合には、敷金に関する法律関係は新賃貸人に当然に承継されるものと解すべきである。そして、上記のような敷金の担保としての性質や賃借人保護の必要性は、賃貸人たる地位の承継が、賃貸物件の売買等による特定承継の場合と、相続による包括承継の場合とで何ら変わるものではないから、賃貸借契約と敷金に関する法律関係に係る上記の法理は、包括承継の場合にも当然に妥当するものというべきである。」
としており、賃貸人たる地位を承継した者がその支払義務を負うと判断しております。

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